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不定期刊行Web短歌誌。「詠う前から届かないこと考えるバカいるかよ!」


by tankatan9

「ブラックテキスト」フラワーしげる(平成23年落選展)テキスト

「ブラックテキスト」 フラワーしげる


 世界

ベランダで鉢を倒してしまい 何年か後の僕はそれを思い返す 星の夜

首相が背負ったじいさんが理由なくわらってみんなもわらう

死なない者はいままでいなかった いいから十二色だけで描け


 夏

突風に朝のフェンスすこし揺らぎ胸のきみも腫瘍ごと揺らぐ

元気でいてという願いはぼくのわがままで 積乱雲の切手はる

おねえさんではないの わたしもまだこどもなの こどもだけど靴をうってるの

自作の登場人物でオナニーをしなかった監督はいないキューブリックを筆頭に


 水晶 

わがままはおんなのはじまりおもいちがいは母親のはじまりきみは愛のはじまり

顔を洗わないくらいじゃ死なない 鬱病騙りの糞自意識野郎 おれの鬱こそほんとうの鬱

いま寂しさにつけこめばセックスできると喋りつづけるおれの息の蝉の匂い

若い同僚の襟から手をこじいれて乳房をもてあそびたいと願う昼の会議室

いやな女くそ蝿のような女ずるい女また得をしてあんなきれいな顔


 風景

近寄ってみると白く短い線は二本の煙草で風がそれを転がす

遠景になればきっとさびしくはないはず おれは早く遠景になれ

作家になるつもりで暗い道を歩きながらちくしょうちくしょうと繰りかえして


 多重債務

二十五日に返せるはずもなくしかしその日入金があると口はひとりでに言って

さもしい考えが頭をよぎるだろう二次会の幹事は断るしかないだろう

顔の前の安い飯 笑いがびゃらびゃらとこみあげ いよいよ首でもくくるか


 世界

子供を殴った夜にしずかにやってくる金色の夢のななふし


 風景

海には跳び箱も教室もなくただ老人が煙草を吸っているだけでした

楽園に一匹の蛇 蟻塚に一頭の蟻食い 詩人に一冊の辞典を


 利き腕の父

風の日に父は妖精になって帰ってきてその小ささに驚く

魔法使いだった父の臨終の夜にフクロウがきてしばらく啼く


 夏

夏雲のきみにすべてをおしはかられて遠投のボール空に消える

ボクサーではなくランナーでもないわたしにも敗れる日がきて


 世界

海が歩きだしてとんでもないことになりおれたちは裸で正装した動物たちの前にでた

抱きしめるためにあるのだろうか抱きしめる腕を凍らせるこの日々は

教えてやろうミッキーマウスというのは鼠でキティは猫だ八十三歳と三十七歳だ

地震を告げる電光掲示板を見あげる人たちが身につけるくまやうさぎやねずみ

帆布は希望で湿ったのですてた さあおそろしい夜よこい




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by tankatan9 | 2011-09-04 23:50 | 落選展