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不定期刊行Web短歌誌。「詠う前から届かないこと考えるバカいるかよ!」


by tankatan9

「S君のこと~BLがまだなかった頃に」藻上旅人(平成23年落選展)テキスト

「S君のこと~BLがまだなかった頃に」 藻上旅人


あの時の夢は儚く留まりぬ こうして君に恋してからは

キャンパスの人ごみ避けて歩み来る 揺れるコートの中にいる君

キャンパスに放り出されて今日からの君と僕とが歩き始める

花冷えの風頬にうけL20教室までの二人の時間

赦されぬ 隠した気持ちこぼれ出す眠れぬ夜と眠らぬ夜と

早々に授業抜け出し立ち寄れば陽だまりの中君たちを見る

しかたないことと知りつつ口惜しむ君が愛したあの娘の笑顔

何もない一日を過ごす 憂鬱と呼び得るほどの感情もなく

最終の授業を終えた教室の西日の中のロートレアモン

窓の外ようやく白む頃になり行き先なしの議論を終える

雨の中肩を並べることでしか君とは縮まりゆかんと思う

暖かな日差しに少し励まされ芝生の上でつなぐ掌

傍にいて言葉に出来ぬもどかしさ頷くだけでいい訳は無く

教室の窓から見える公園のふたり見守る授業の終わり

僕たちの未来に残すものは無く互いにそれを失敗と呼ぶ

僕たちの生み出す詩《うた》は拙くてただ苛立ちが積もり続ける

気が付いた あの娘が踊るステージを観ている君の淋しい仕草

いつまでも同じ話をやめないで傷つくままを選び取るんだ

君が泣く 初めて見せる戸惑いに肩抱いたまま時間が止まる

その午後の君は何にも喋らずに吹き来る風を見続けていた

今君は初めて見せる無防備さ頬の陽ざしに口づけてみる

それ以上言えないことが大切で ダイナマイトを踏んでみようか

今日という日のおしまいに耐え切れず車を駆って何処までも行く

朝までの減りゆく時間惜しむごと幾度も同じ詩《うた》口ずさむ

僕の名を呼ぶ瞬間の戸惑いを訊ね得ぬ儘去る雨の朝

階段を下りた部室の片隅に置き忘れてるデスノスの詩《うた》

駅までのバス追いながら手を振れば帰らぬ日々と来たらぬ明日

・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・想いこぼれて

あの頃の時空がすこし歪んでる こうして君に恋してからは

あの頃と変わらず季節《とき》は繰り返す こうして君に恋してからは




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by tankatan9 | 2011-09-04 23:52 | 落選展